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​オ   ス

​part.1 「押忍」を使いこなせ!の巻

自分はパソコンが苦手でなるべく関わらないように生きてきた。でも時代の流れに逆らうことはできない。今はなんでも「インターネット」、「ネット」の時代なのだ。ということに最近気づき(すでに遅すぎるのだが)、ようやく自分の道場のホームページを作ることにした。さしあたって、ワールド大山空手のトップである最高師範に許可をもらわなくてはいけない。こういうことをおろそかにすると、後で、「俺は聞いていないぞ!!」となって、めちゃくちゃおこられる。内弟子時代に「最高師範をおこらせる天才」(自己紹介のところ参照)と言われてきた自分だが、さすがに20年も経つと学習するもので、その点ぬかりはない。と、ここで、まず一つ頭を悩ませることが出てくる。いつ電話するかということだ。

 

その前に、説明として、最高師範に電話することはよっぽどのことがなければ普通まずない。自分が内弟子から帰ってきて約20年くらい経つが、記憶にある限り、13年くらい前に「常設道場を出します。」と報告した時に電話した、この一度きりである。それにはある理由がある。その昔、アメリカに渡った内弟子初日に、内弟子の先輩から、「最高師範には『押忍』以外言うな!余計なこと言うなよ。」と優しく教えていただいた。(空手を知らない人のために説明しておくと、「押忍」とは、一般社会でいう返事の「はい」みたいなものである。)最初は、「えっ、どういうこと?それじゃどうやって意思疎通をはかるの?」っと疑問に思ったが。その疑問はすぐに解けることになる。まず、新人内弟子が何かを言える雰囲気ではないのだ。そうなると、ただひたすら「オス」なのである。ただここで先ほどの疑問が出てくる。じゃあ、どうやって意思疎通をはかるのか。そう、ただ一つ言っていい言葉「オス」を駆使して意思を伝えるのである。その「オス」の使い方の詳細は後で説明するとして、そんな感じで、余計な電話など絶対にしてはいけない。さすがに今では少しくらいなら話をすることができるようになったが、それでも自分からペラペラしゃべるようなことは絶対にない。少し話が脱線してしまったので、話を元に戻す。

 

ということで、電話するにも、細心の注意を払わなくてはいけない。クラスの指導中に電話してしまったらダメだし、夜かけるにしても、アルコールが入っていて、酔っていたらマズいし、そもそも覚えていない可能性もある。と、いろいろ頭を悩ませた結果、アメリカ時間で日曜日の午前中にしようと決めた。なんでかというと、最高師範は、日曜日には一人で道場に来て、自分の稽古や事務的な作業をしていると聞いたことがあったからで、(ちなみに世界総本部は日曜日にはクラスはない。)日本時間で、月曜の夜、自分の道場のクラスを終えて、帰宅した後、電話の前で少し呼吸を整え、意を決してアラバマの総本部にかけてみる。

「プルルル・・・・、プルルル・・・・」、「ガチャ」、

「This is OYAMA KARATE.」と出た。(ん、最高師範の声じゃないぞ、外人だぞ。)←心の声

少し動揺する。お恥ずかしながら、内弟子としてアメリカに約3年間いたにも関わらず、英語は全くダメなのである。でも、ここで逃げるわけにはいかない。前に出る組手である。自分の拙い英語を総動員して聞いてみる。

「May I speak to Saiko Shihan?」

「He is not here.」(え~、マジっすか、いないのか~。)

と思ったが、ここでも切るわけにはいかないのでもう少し頑張ってみる。

「Where is he?」

「#?//@b%#・・・・・・・・・・number・・・・・・・・・・!#?@#//」

(え~、やっぱり何言ってるかわからない。)でもなんとなく知らないと言っているんだと推測した。あと、最後の方でナンバーという単語だけ聞こえて来たので、「ああ、携帯か家の番号を教えるので、そっちにかけてくれ。」と言っているのだと勝手に推測する。

「Is he home?」と聞くと、

「%#@#・・・・・・・・・・schedule・・・・・・・・・・#//:>」

っと、またスケジュールという単語だけ聞こえてきた。恐らく、「最高師範のスケジュールは知らないので分からない。」と言ったんだろうと勝手に推測する。自分は、かしこいので推測する力はあるのだ。ただ合っているかは分からない。しょうがないので、かけ直すことにして、電話を切ろうとした時、ふとあることに気づいた。(なんとなく聞いたことのある声だ。ひょっとしてこの外人は先生カールではないか?と。)あまりよくは知らないが、2回ほど日本の大会で挨拶したことがあり、優しい雰囲気でとてもいい人という印象を受けた。顔はお笑い芸人の厚切りジェイソンに少し似ている。アメリカの大会で何度も優勝しており、最高師範の右腕として、少年部のクラスを任されていると聞いている。とりあえず、

「Are you sensei Karl?」

と聞いてみた。

「OH,yes.」(あっ、やっぱりカールだ。)

「This is sensei Teru.」

と言うと、

「オッ、オス。先生。」

と少し驚き、恐縮した感じで返事が返ってきた。

自分はカールの先輩にあたるので、それで敬意を払ってくれたのかもしれない。なにはともあれ少し安心した。それで

「I call back again.」

と言って、電話を切ろうとした時、あることが頭をよぎった。滅多に電話してこない自分が、電話してきたことに対して、最高師範が心配してかけ直してくるのではないか。っと、最高師範にかけ直させるわけにはいかない。それで、「自分が、またかけるから最高師範には電話があったと伝えないで。」っと言おうと思ったのだが、英語がすぐに出てこない。いや、多分、いくら待っても出てこないだろう。

んで、困ってマゴマゴしていると。もう一つ思い出した。先生カールは、昔、日本に何年か住んでいたことがあり、日本語も少しならいけると誰かが言っていたことを。それで、渡りに船と思い、日本語で、

「自分が、またかけるので、最高師範には、電話があったと伝えないで。」

と言ってみた。すると、

「オッ オ~・・・」

という返事。いまいちはっきりしない感じに聞こえたので、もう一回、

「あっ、自分がかけるんで最高師範には言わないで」

と言うと

「オッ オ~・・・」

んで、最後に、

「I call back later.」

と言ったら、

「オッ オ~・・・」

(まあ、2回言ったし、英語で後でかけるって言ったから、まぁ、大丈夫だな。よし!)と思って、一抹の不安を残しつつ、「もういいや、えいっ」と電話を切る。

 

切ってから、しばらくして不安が襲ってきた。というのも先ほど、最高師範とは、ほとんど「オス」という二文字を駆使して意思疎通するものだということを書いたが、この「オス」単に二つの発音だけなのだが、その言い方、つなぎ方、強弱の付け方、アクセントのもっていき方によってほぼ全ての感情を表現できるのである。例えば、何か少し驚いたり、自慢話をされた時は、「オッ オ~ス」とちょっと感心するような感じの「オス」を使う。コツとしては、始めの「オッ」のとこに強めのアクセントを持ってきて、その後の「オ〜」を少し伸ばし気味にして「ス」に繋げる。

ちょっとイタイところをつかれてマズいなっていう時は、

「オース オと始めの「オス」を少し伸ばし、その後4、5回くらい「オス」を小さくしながら繋げていく。いわゆる「繋ぎ技」の「オス」である。コツとしては、少し恐縮してすいませんでした的な感じで言うと完璧である。ちなみに、この「オス」は、自分の得意技で、数々のピンチを救ってくれている。最高師範が、「得意技の一つか二つ持っといた方がいい。」と言われるが。まさにその通りである。他には、何かあまり気の進まないことを命令されたり、困った時には、「オッ オ~・・・」と少し困った感じを出さなくてはいけない。コツとしては、終わりの~・・・」のとこを少し口を小さくして、息を吐きながら、小さめに発音し伸ばす。

 

というように「オス」だけで何百通りもの言い方が存在し、感情表現できてしまうのである。これは、誰に教わったわけではなく、内弟子をしていれば自然に身についていくものである。なんせ基本「オス」しか言ってはいけないのだ。なので最高師範がよく、「相手の構えを見れば、その人の組手のスタイル、技量、強さが大体わかる。」と言われるが、自分は、「オス」の言い方を聞けば、その人が、どのくらい最高師範の側にいるのかが大体わかる。

 

で、話を元に戻すと、その最後の方のカールの「オッ オ~・・・」というのは、終わりの~・・・」のとこが、小さめに発音し、伸ばされていたのだった。(あっあれは、よく分かっていない時の、困った時の「オス」かもしれない。)と思ったので、カールが気を利かせて、最高師範に連絡した時のために、(その時、自分はテレビをみていたのだが)電話の子機をすぐ横に置いて、すぐとれるようにしておいた。これも、内弟子時代、内弟子寮でくつろいでいる時、よく最高師範から用事の電話がかかってくるのだが、その時、すぐに電話を取らないと

「何やってんだ、バカヤロー!!」

と、めちゃくちゃおこられる。最長でも2コール目までには取らないと大目玉である。当然、この時の「オス」は、繋ぎ技の「オース オ」である。なので、内弟子寮の電話が「プッ」となろうものなら、オリンピックの100m走ではないかと思うくらいのスタートダッシュが繰り広げられる。今思えば、それも、反射神経と瞬発力を鍛える稽古だったのかもしれない。幸いにも、時代は進歩して、自分の家は、コードレスフォンなので、今はダッシュする必要はない。

 

15分くらいたち、電話は鳴らない。「なんだ、カールやっぱり分かってくれてたんだ。」っと息を抜きかけた時、

「プッ プルルル・・・・」(えっ、まさか。)、一瞬で子機をとる。

一応違う人だった時のために、

「もしもし、戸谷です。」

というと、

「大山ですが」の「大山で」くらいの所で焦って

「オッ、オス テルです。」とちょっと食い気味に言ってしまった。

内心、(え~、やっぱりカールのあの「オッ オ~・・・」は、困った時の「オス」だったんだ。)と思いつつ。

最高師範「なんだ。」

「オッ、オス 愛知支部のホームページを作ってもよろしいでしょうか?」

「あ~、全然いいよ。どんどんやりなさい。」

「なんなら写真送ってやろうか。」と言ってくださった。

ありがたいことである。

最近の最高師範は、とてもやさしいのである。←ここ強調。

少し恐縮して遠慮気味に、

「あのう、カールに『自分がかけ直すから、最高師範には伝えないで』って言ったんですけど」

と言うと。

「あぁ、テルから電話があったんだけど、『英語と日本語がごっちゃになっててなんかよくわからねぇ』って言ってたぞ!」

と、それを聞いた途端、自分も最高師範も少し吹き出してしまった。その後、少し近況を報告して、

「じゃあ、全日本で会うのを楽しみにしてるからな。」

というありがたい言葉をいただき電話を切った。

 

最高師範との電話は試合と同じくらい緊張するのである。なにか大きな仕事をやり遂げた気がした。今年もなんとか年を越せそうである。

ということで、話は、ここで終わりなのだが、この際ついでなので、この「オス」について、もう少し説明しようと思う。この「オス」の使い方には、もう一つ上の位の「オス」が存在する。それを自分は不動心の「オス」と呼んでいる。不動心の「オス」とは、その字のとおり、心を動かさずに言う、「オス」である。これの使いどころは、何か、大きな失敗や、ミスをしてしまった時、これは間違いなく、どしかられるなっていう時にイチかバチかの捨て身で使う「オス」である。まず、言う前に、丹田に気を込め、顔は無表情、感情も無にする。この時できれば、まゆ一つ動かしてはいけない。そして、最高師範が、そのことについて問いただしたその時、落ち着いて、丹田、腹から、少し低い感じで「オス」と力強く言うのである。言葉で、説明するのは難しいが。大体こんな感じである。くれぐれも、焦って先走ったり、心を動かしてはいけない。運が良ければ、これで切り抜けられる。これは、本当に難しい技で、自分が知る限り、この技を使えていたのは、内弟子の先輩である先生テツぐらいである。ただやはりまだ技が完全ではないのか、先生テツでさえ、この技が効かなくて、どしかられることもあったと記憶している。

それで、自分も、大変なことをやらかしてしまった時に、一度だけ、この技を、試してみようと思ったことがある。丹田に気を込め(たつもり)、準備万端、最高師範に問い詰められた時、今だ、心を動かさず、力強く、少し低い感じで

「オス」

 

よし決まった。と思った瞬間。

「なんだ、お前、ひらきなおってんのか!!」

(え~、全然効いてないじゃん、やばいぞ。)←心の声

不動心はすぐに崩れ、得意の「オース オ」となるのである。今思えば、そもそも不動心ではなかったと思われる。その後、「反省しろ!バカヤロー!!」となって、いつもの100倍おこられ、週1回ある唯一の貴重な外出が禁止になったのは言うまでもない。今、考えてみると、技を出す前の気攻めが十分でなかったのが原因だと思う。「オス」と言う前に、すでに気をまとっていなくてはいけない。オーラを出すと言うか。これは一朝一夕でできることではなく、コツコツと毎日、厳しい、正しい稽古を積み重ねる中で自然と、自分に備わってくるものである。

 

ということで、やっぱり空手同様、付け焼き刃の技は通用しないのである。皆さんもくれぐれも真似しないように。初段ぐらいではとても使える技ではないので注意してもらいたい。少なくとも三段か四段くらいにならないと使えないと思われる。

ちなみに、自分の得意技である「オース オ」は比較的、簡単で色帯でも習得可能である。

 

これを書いていてもう一つ、心配なことが出てきた。それは、これを最高師範が読んだら、どしかられるかもしれない、ということだ。

「そうだ、自分も長年、毎日稽古を積んできたし、四段にもなったので、今なら不動心の『オス』が使えるかもしれない。」

「明日、先生テツに電話してコツを教えてもらおうかな。」とも思ったが、やっぱり素直に謝るのが一番である。

(下手に小細工してうまくいった試しがない)

なんて言っても、

「最近の最高師範はとてもやさしい。すごくやさしい。とてつもなくやさしい。」(3回言っとけば大丈夫だ。)

 

きっと許してくれる。うん、そうだ、きっと許してくれる。(自分に言い聞かす。)

もし、それでもダメな時は、自分の得意技、アレを出すしかない。

「押忍、最高師範、失礼しました。 オース オス    

 

 

P.S.

自分が言うのもなんですが、最高師範の作られた映画「take a chance

~アメリカの内弟子~」は、ぜひ多くの人に見てもらいたい。誰が見ても、力、エネルギー、勇気をもらえる作品になっています。そしてなん

と言っても、今、大人気の真剣佑の初主演映画である。今より、とても

若い、初々しい真剣佑が見られます。真剣佑ファンは必見です。

P.S.

ちなみに先生カールもセリフ付きのチョイ役で出ています。その演技が

自然で、とても素人とは思えないくらいうまい。カールだけでなく、

マサ、斎藤師範も、チョイ役で出てた人みんなうまいのである。空手を

一生懸命やっていると役者もできるようになるのか? だとすると、

自分にもできるかもしれない。

最高師範、「次、作る時は、自分も出演させてください。準主役級で。」「できれば綺麗なヒロインとの絡みがあると嬉しいのですが・・・。」

なんか、書けば書くほど、おこられることが増えていっている気がする

ので、この辺で終わりにする。

押忍

スクリーンショット 2018-10-03 22.31.09.png

この左奥が先生カールである。

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